2012年11月4日日曜日

フランス・パリ水道再公営化のについて



 水道事業の民営化といえばフランス。その国の首都であり、世界中で民営化を推し進める「水男爵(ウォーター・バロン)」と言われる多国籍水企業の本社が集まるパリで、1985年以来続く民間運営の水道事業が再公営化されたニュースは、「フレンチモデルの崩壊」として、衝撃をもって世界中を駆け巡りました。

 200811月にパリ市議会は、水道事業を委託していたスエズ、ヴェオリアの2社に対して、契約更新を行わない決定を下しました。そして、これら民間事業者に替わって、パリ市が直接監督する公営水道事業体「Eau de Paris(パリの水)」を設立することを決めたのです。

 1985年のシラク市政下に行われた水道事業民営化は、セーヌ川を境にスエズとヴェオリアの両社に委託契約され、その両社はGIEという料金徴収会社を合同で設立。これらの会社を監督する役目をもってSAGEPという会社まで設立されましたが、これもスエズとヴェオリアが両社とも株式保有するという、独立性や透明性に疑問があるものでした。また、市の直轄であった水質管理機関(CRECEP)は市の関与を離れ独立機関とされたことから、経営の正当性や透明性、さらには装置産業としての技術的な部分に至るまで、市のチェックの及ばぬものになりました。

 これこそ「フレンチモデル」と言われる典型的な構造ですが、事業を委託した市は徐々に水道の管理から距離を作られ離されて、確実に水道システムの技術的な知識やノウハウを失わせられる水企業の手法です。さらに付帯する様々なサービスを子会社に下請けさせ、現実的に依存しなければならなくなった市を相手に、過剰な契約を迫り多大な利益を得るという構造です。

 85年に委託した当時、22%であった漏水率は2003年時点で17%になり、85年から2009年までの間に水道料金は265%上昇しました。この間のインフレ率が70.5%だったことを背景に考えると、生命(いのち)の水を預かる企業としては許されない暴利企業であったことが伺えます。

 この間のスエズとヴェオリア、両社の利益率は報告によれば6~7%ですが、実際は15%という指摘もあり、監督力や規制力を欠いた市は、もはや正確な利益率すら知ることは出来なくなっていました。

 2001年に当選、就任したベルトラン・ドラノエ市長は、こうした実態を問題視して、水道事業の再公営化に向けて検討を始め、当時の市議会議員であったアン・レ・ストラット氏(現在のEau de Paris最高責任者)は、水道事業の財政的な不透明性を追求し、再公営化に向けてのプロセスを模索しました。

 検討した結果、両社らとの契約破棄を念頭に再公営化に進めば、契約違反や不履行、さらには再交渉といった、法的・財政的・技術的・人事的な問題を抱えることになると断念しました。そして、結論としては、契約を途中で破棄するよりも、2009年末の契約終了を待って「再更新しない」という方法が最善だと判断をしたのです。

 市長の強固な意志による「水道再公営化のプロセス」は、2007年の市議会以降、SAGEP社のスエズ・ヴェオリアの両社が保有する株式を売却させ市に戻し、GIE社を廃止させました。そしてセーヌ川で分断されていた水道サービスを統合し、市民の水を公共財として市が一貫して供給する「Eau de Paris(パリの水)」の設立提案に至ったのです。

 その後、「水源から水利用者まで一貫して事業運営する」という理念の公共水道の発足(再公営化)は、2010年1月のEau de Paris操業まで様々な問題に直面しながらも、先んじて再公営化を果たしていたグルノーブル市の協力を得るなどの手法をもって完成したのです。

 再公営化したパリ市の水道は、上述の通りEau de Parisが運営を始め、市民にとって多くのメリットを生み出し続けています。

 事業開始した2010年の一年間で、民間運営だった前年より3,500万ユーロ(約45億円)のコスト削減に成功し、その結果パリ市民の水道料金も、前年比8%の値下げを達成したのです。

 さらに、再公営化したメリットはそれだけにとどまらず、短期的な利益を追う企業では、その優先順位が一番後回しにされてきたような、水源汚染防止のキャンペーンや近隣農家への啓発活動、環境配慮への支援など、長期的な問題に水道行政として着手したのです。

 分断されていた事業を統合し、これまでは株主配当や役員報酬に充てられていた収益のほとんどを、市民に再投資するという形でスタートしたEau de Parisは、再公営化をめざす自治体のあらたな「フレンチモデル」として、水道事業の根源的な役割を示唆しています。

将来にわたる水道事業の普遍的アクセスを念頭に、社会的弱者にも支払い可能な水道料金設定を優先し、水を取り巻く環境を守ることで、質の高い事業運営が可能だという公営水道の可能性を追求していると言っても過言ではないでしょう。

 いま日本国内では、公共サービスを民営化することが正義かのごとく、売却や委託を声高に主張する風潮が蔓延しています。しかし、一度民間の手に渡ってしまえば、そのサービスが公共であるべきと気が付いたとしても、市民が取り戻すことは至難の業です。

 いま、日本の水道事業が公営で運営されているならば、市民の代表が議論する議会において、その経営や方針を決定することが出来ます。日常のみならず災害時といった事態を予測すれば、「生命(いのち)の水」を作り送り届ける社会性や公共性は明白です。

民営化よりもまず先に、考えなければならないことがあるのではないでしょうか。

 

2012年11月3日土曜日

【12/8大阪】どうなんのん?大阪の水道シンポジウム 大阪-近畿-世界へとつながる水問題


どうなんのん?大阪の水道シンポジウム

大阪-近畿-世界へとつながる水問題


【日時】2012年12月8日(土)13:00~17:30(受付12:30~)
【場所】大阪コロナホテル 別館200ABC(大阪府大阪市東淀川区西淡路1丁目3番21号)
【アクセス】JR・大阪市営地下鉄「新大阪」駅より徒歩2分
【定員】300名
【参加費】500円(水政策研究所・AMネット会員および学生証提示者は無料)

【主催】NPO法人水政策研究所NPO法人AMネット 
【協賛】全国まちおこし自然農法推進機構、アクアスフィア、関西NGO協議会(予定)、全水道(予定)、自治労(予定)、日教組(予定)、全農林(予定)、合洗大阪連絡会(予定)ほか
【後援】大阪府(予定)、大阪市(予定)

【開催趣旨】
 市民生活や社会活動をする上で欠くことが出来ない「水」。私たちは、毎朝起きれば水道の蛇口をひねり顔を洗うなどで一日がスタートし、食事や衛生的な生活を営む上においても、水道と私たちの生活とは密接に繋がっています。また、ひとたび災害などが起きれば、まず生命の維持に欠かせないものとして水・水道は認識され、その確保を第一優先順位としながら、復旧、復興の光となるものです。

 このように、生きとし生けるものすべてに必要な水、そして水道が、いま大阪では大きく揺れていることを市民の皆さんはご存じでしょうか。

 私たちが暮らす大阪府や大阪市では、府民・市民の選択による政治的背景によって、大阪都構想が進められ、水道事業については「二重行政であり無駄を解消する」として、今まさに水道事業の統合が検討されているところです。

 大阪市を含む43市町村が、大阪広域水道企業団として水道事業を統合し、大阪府・市で暮らす人々の蛇口の水を管理するようになれば、どういうことが起こるのでしょうか。また、現在の統合協議はどのような議論を経ながら推移しているのでしょうか。

 私たちひとりひとりが、この水道事業を取り巻く状況について、正確に知る必要があると考え、関心あるすべての人々を対象とした「大阪の水道を考えるシンポジウム」を開催いたします。

【パネリスト】
◎コーディネーター:佐久間 智子氏(NPO法人アジア太平洋資料センター代表理事、翻訳家)
●橋本 淳司氏(アクアスフィア橋本淳司事務所代表、水ジャーナリスト)
●村上 悟氏(NPO法人碧い琵琶湖
●行政(調整中)
●議員(調整中)
●山本 奈美氏(元TNI/CEOウォータージャスティス・プロジェクト担当、耕し歌ふぁーむ
●水道局職員(調整中)

【お問い合わせ】
NPO法人水政策研究所
〒530-0041 大阪市北区天神橋3丁目6-26
TEL:06-6882-6767/FAX:06-4800-2226
E-MAIL:water-policy [@] cosmos.ocn.ne.jp
URL:http://www.water-policy.com/